PARANOID ANDROID

140文字以上の主に本についてのつぶやき

『ハンチバック』市川沙央

今日からようやくこの本を読んでいます。

第169回芥川賞受賞。
選考会沸騰の大問題作!

「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。」
井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。
両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす――。

確か芥川賞を受賞した時のインタビューかな?のときに仰っていたことが本文中に書かれていたけれど、引用します(長くなります)。 

私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に書いに行けること、ー5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。曲がった首でかろうじて支える重い頭が頭痛を軋ませ、内臓を押し潰しながら屈曲した腰が前傾姿勢のせいで地球との綱引きに負けていく。紙の本を読むたびに私の背骨は少しずつ曲がっていくような気がする。私の背骨が曲がりはじめたのは小3の頃だ。
〜27ページ 

マチズモ(マチスモ)とは

ラテンアメリカで賛美される「男らしい男」を意味するスペイン語のmachoから
男っぽさ。誇示された力。男性優位主義。
[類語]むきむき・もりもり・隆隆・ごりごり・むっちり・むちむち・筋肉質・筋肉美・肉体派・肉体美・厳いかつい・マッチョ・マッチョマン・マッチョイズム・マッスル・たくましい・強靭きょうじん・タフ・不死身・頑健・強壮・強健・屈強・剛健・頑丈
デジタル大辞泉より

言いたいことはわかるし、自分がいかに恵まれているのかと思い知らされます。
だけど、重要なのは書いてある通り「読書文化のマチズモ」を憎んでるのであるから、浅薄に誤解してはならない、ということ。 

知らない単語も出てきた。

インセル(英語: incel)とは、

インターネットカルチャーの一つで、自らを「異性との交際が長期間なく、経済的理由などで結婚を諦めた、結果としての独身」と定義する男性のグループのことである。"involuntary"(不本意)と"celibate"(禁欲、不淫)の2語を組合せた混成語であり、そのような状況下にあることを彼らの間では「インセルダム(inceldom)」とも言う。 日本語では不本意の禁欲主義者、非自発的独身者などと訳され、「非モテ」や「弱者男性」などの言葉に重なる面が大きい。
Wikipediaより 

31ページに「もしかしたらインセルじゃん、こわ。」との表記。
ミソジニー的な何かなのかな?

苛立ちや蔑みというものは、遥か遠く離れたものには向かないものだ。私が紙の本をに感じる憎しみもそうだ。
〜33ページ 

日本では社会に障害者はいないことになっているのでそんなアグレッシブな配慮はない。本に苦しむせむし(ハンチバック)の怪物の姿など日本の健常者は想像もしたことがないのだろう。こちらは紙の本を1冊読むたびに少しずつ背骨が潰れていく気がするというのに、紙の匂いが好き、とかページをめくる感触が好き、などと宣い電子書籍を貶める健常者は呑気でいい。EテレのバリバラだったかハートネットTVだったか、よく出演されていたE原さんは読書バリアフリーを訴えてらしたけど、心臓を悪くして先日亡くなられてしまった。ヘルパーにページをめくってもらわないと読書できない紙の本の不便を彼女はせつせつと語ったいた。紙の匂いが、ページをめくる感触が、左手の中で減っていく残ページの緊張感が、などと文化的な香りのする言い回しを燻らせていれば済む健常者は呑気でいい。出版界は健常者優位主義(マチズモ)ですよ、と私はフォーラムに書き込んだ。軟弱を気取る文化系の皆さんが蛇蝎の如く憎むスポーツ界のほうが、よっぽどその一隅に障害者の活躍の場を用意してるじゃないですか。
〜34〜35ページ 

とても正論なのだけど、もうね、読んでていたたまれない。
恨みつらみの強さに。

女性と障害女性がパラレルであるように。
〜38ページ

あゝ、たしかに。

さて今は半分も超えて、主人公と露悪的なヘルパー田中との間に(インセル発言も彼に向けて)嫌なムードが漂っています。この2人どうなるのでしょう?


【20231021夜】追記

今朝この本は読み終わったのですが、先程わたしが尊敬している(大ファンなんです!)コラムニストの山崎まどかさんが書かれたこの本の書評を読みましたので、リンクを貼らせていただきます。

magazine.nikkei.com