蔵書は少しずつ減らしているのですが、創元ライブラリ版中井英夫全集は全巻たぶんわたしが死ぬまで持ち続け、読み続けている本だと思います。
全12巻すべて初版で、発売されるのを楽しみに買っていました。
読みすぎた巻はボロボロだけど。
特に『虚無への供物』と『とらんぷ譚』。
昨日の夜、その『虚無への供物』のページをパラパラと繰っていて、そういえば、この本はシャンソンわりと出てくるなぁ、主要登場人物の奈々村久生は奈々緋紗緒という名でシャンソン歌手だし…と思い、SpotifyとYouTubeを駆使して聴いていました。
中井英夫の『虚無への供物』とは?から本当は始めなきゃだけれど(わからない方ポカーンですよね…)わたしの人格形成に多大な影響を与えてしまった日本三大奇書の1冊で、稿を改めて後日書こうと思います。
『虚無への供物』(きょむへのくもつ)は、日本の小説家・中井英夫の代表作とされる推理小説。1964年に単行本として刊行された。小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、夢野久作『ドグラ・マグラ』とともに日本探偵小説史上の三大奇書と称される。推理小説でありながら推理小説であることを拒否する反推理小説(アンチ・ミステリー)の傑作としても知られる。
昭和二十九年の洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司(そうじ)・紅司(こうじ)兄弟、従弟の藍司(あいじ)らのいる氷沼(ひぬま)家に、さらなる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎(とうじろう)もガスで絶命――殺人、事故?駆け出し歌手・奈々村久生(ななむらひさお)らの推理合戦が始まった。
アパートの一室での毒殺、黄色の部屋の密室トリック――素人探偵・奈々村久生(ななむらひさお)と婚約者・牟礼田俊夫(むれたとしお)らが推理を重ねる。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など、蘊蓄(うんちく)も披露、巧みに仕掛けたワナと見事に構成された「ワンダランド」に、中井英夫の「反推理小説」の真髄を見る究極のミステリー!
それではさっそく聴いていきましょう。登場順に並べていきます。引用はすべて『虚無への供物』から。後半の章からの引用になるとネタバレ部分にかかってしまうので途中までで…。
- 恐い病気よりまし
- アルフォンソ
- タ・マ・ラ・ブㇺ・ディ・エ
- 小さなひなげしのように
- コンガ・ブリコティ
- ラ・ダダダ、アリババ
- 紅いさくらんぼと白い林檎の木、セレソ・ローサ
- ガレリアン
- ルナ・ロッサ
- ムッシュウ・ルノオブル
恐い病気よりまし
「あら、リイヌ・クルヴェかしら。……そうだわ、ねぇアリョーシャ、きいてる?古い歌手だけどだ、断然ごひいきなのよ、あたし」
いかにも、ひと昔まえのレビュー小屋で栄えたような、お侠な鼻声が高っ調子に唄いあげているものは、何やら戦前のシャンソンらしく、針音もひどいしろものだが、
「あれは”恐い病気よりまし”って唄」〜序章2 牧羊神のむれ
アルフォンソ
「一度でいいから、この人の”アルフォンソ”って唄、しみじみきいてみたいんだけど、ここにならあるかもしれないわね」
〜序章2 牧羊神のむれ
タ・マ・ラ・ブㇺ・ディ・エ
これは、LFで毎週水曜の夜十時三十五分から、おなじみ蘆原英了先生の解説、スポンサーは大日本製糖、ジェルメエヌ・モンテロの”タ・マ・ラ・ブㇺ・ディ・エ”をテーマ音楽に放送されていた、シャンソン専門の番組であった。
第一章12 十字架と毬
小さなひなげしのように
その時も、じきにもの哀しいような男の歌声が、亜利夫たちにも幽かにきこえはじめたが、あとで聞いてみると、曲はコマン・プチ・コクリコ、”小さなひなげしのように”で、唄っていたのは、これで前年のディスク大賞をもらったムルージ――
第一章12 十字架と毬
コンガ・ブリコティ
「まあ、クルヴェの”アルフォンソ”をごぞんじだなんて」
ママさんは大げさな喜びようで、久生の大きく結いあげた付け髷から足の先までを、つくづくと眺め廻しながら、
「表はベーカーの”コンガ・ブリコティ”でB面の曲でしたのに、よく流行りましたわねえ、粋なパソ・ドブレで」第一章20 虚無への供物
ラ・ダダダ、アリババ
「他にも”ラ・ダダダ”や”アリババ”なんてございましたけど、いまは確か”恐い病気よりまし”って一枚だけ」
第一章20 虚無への供物
紅いさくらんぼと白い林檎の木、セレソ・ローサ
「シャンソンなんて、いやーね、じめじめしちゃって。あの”さくらんぼの木”ってのはいいけどさ。ねえ藍ちゃん、アレをマンボに直したの、聴いた?ペレス・プラードの、そりゃア痺れるのがあるの」
第一章20 虚無への供物
ガレリアン
「藍ちゃん、いいレコードを持って来たよ。イヴ・モンタン……、”ガレリアン”が入っているやつだ」
「ほんと?いま持ってるの?」
藍ちゃんはやっと笑顔を見せた。第二章27 預言者の帰国
ルナ・ロッサ
「ヒヌマ・マーダーも変な幕切れになっちゃったけど、せめて二人でフィナーレの合唱をしない?”ルナ・ロッサ”なら、ちょうどふさわしくてよ」
第二章30 畸形な月
ムッシュウ・ルノオブル
「そういえば、メロディは忘れたけど、何でも、コンフィアンス、コンフィアンスってルフランがついてたよ。コンフィアンスって、信頼とか信用とかっていう意味だろう?」
第四章46 ワンダランドへの誘い
是非聴いてみてください!